第7回RIZAP鼎談 ゲスト:Jリーグ湘南ベルマーレ・曺貴裁(チョウキジェ)監督 「トラブルはチャンス」と考える

ダイエットの先にある「健康」へのコミット――。次のステージを目指すRIZAPのトーク企画第7弾のゲストは湘南ベルマーレの曺貴裁監督。素早い攻守の切り換えとハードワークを徹底する現在の「湘南スタイル」を確立した指導者だ。昨季はルヴァンカップを制し、“結果にコミット”した。同クラブのパフォーマンスアップチーフトレーナーを務める管野翔太さんとともに指導論、育成論について語り合った。司会はスポーツジャーナリストの二宮清純さん。


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<管野トレーナーの貢献>

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二宮清純:  昨年5月からベルマーレはRIZAPグループの傘下に入りました。この話を聞いた時、率直にどう思いました?

曺貴裁:  びっくりです! ウソでしょう、と(笑)。過去に様々な企業がスポンサーになるという話が出ていたのですが、そうならなかった。今回はうまくいって欲しいと願っていました。

二宮:  3年総額10億円以上の資金面でのバックアップを受けます。

曺:  “一緒に頑張ってくれる人と巡り会えた”という心境です。選手たちには常々、「パートナーと巡り会ってから頑張り出しても遅い。頑張ってきた成果としてパートナーと巡り会えたんだ」と伝えていました。

二宮:  管野さんは昨年6月からパフォーマンスアップチーフトレーナーとしてクラブに常駐されています。昨年を振り返ってみていかがですか。

管野翔太:  選手たちが抱いていたRIZAPのイメージは“激しい筋力トレーニングと極端な食事制限”でした。そんなトレーナーが入ってくると不安もあったと思いますので、加入当初、選手たちに「そんなに筋トレをする必要はないよ」と言ったら驚かれました。

二宮:  選手たちがイメージしていたRIZAPのトレーナーとは真逆のことを指摘したからでしょうか?

管野:  はい。もちろん適切な筋トレは必要ではあるので、全くしないということではないのですが、今振り返ってみるとそうした誤解をとくためにそういう表現をしました。

二宮:  RIZAPとの公約の1つに「2020年までに国内3大タイトル(リーグ戦、カップ戦、天皇杯)のいずれかを獲得」するというものがありました。見事、昨年はルヴァンカップを制して結果にコミットしました。

曺:  決勝戦の1週間ほど前にRIZAPの本社に挨拶に訪れて「必ず勝ちます」と言ったので嘘つきにならず済みました(笑)。?

二宮:  クラブとしては94年度の天皇杯以来、25年ぶりのタイトル奪取。達成感はありましたか?

曺:  選手たちの「優勝するんだ」という気持ちが強かった。目標を明言することでこういう流れを呼び込むんだなと改めて実感しました

二宮:  優勝後の会見では管野さんの働きを称賛していました。

曺:  管野は目に見えないところで大きな力を発揮してくれた。トレーニングに関する専門的な知識を生かして選手たちを支えてくれました。こういう人材は他のサッカークラブにはいないと思います。

管野:  トレーナー冥利に尽きる言葉、ありがとうございます。私自身、チームでの選手との接し方について難しいと感じることや学び、気づきが多い1年でした。

二宮:  具体的には?

管野:  一番は選手との距離感です。チームの中で選手との距離が近すぎるといい影響がないこともあると感じました。どちらが良い悪いではないですが、選手に比べるとRIZAPの店舗で一般のお客様を指導する時は物理的にも精神的にも近くに寄り添うことが多いので、その違いは私にとって新鮮であり、発見でした。

二宮:  プロの世界で慣れ合いは必要ありません。ある程度の緊張感が大事でしょう。曺監督と管野さんの間ではどういったやり取りが?

曺:  あまり僕が言い過ぎると管野が選手に本音を言いにくくなってしまうかもしれない。組織として方向性を一致させるために彼と話はしますが細かく「ああだ、こうだ」とは言いませんね。

管野:  監督の配慮もあって自分の立ち位置で特別苦労したことはありません。目的はクラブが勝つことと選手が成長すること。そこに向けて自分の役割を全うするだけです。

二宮:  例えば、キャンプ前とかにはどういった話を?

曺:  今季はこうしたい、というイメージの共有はしました。

管野:  詳細は明かせませんが、選手たちのフィジカル強化をどうするか? という話をしました。そこで決めた目標から逆算して「こういう理由でこの時期までには、このメニューを消化して……」といった設計図を作りました。

曺:  選手も心強いと思いますよ。管野は選手が抱えている不安を聞いたり、「体のここを強化したい」と思ったらアドバイスをくれたりする存在ですから。

RIZAP Lab開設>

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二宮:  今年は管野さんの他にもうひとり、福士貴佑樹さんがパフォーマンスアップトレーナーとしてベルマーレに常駐します。

曺:  今年の1月にRIZAP Labが開設したことで管野の仕事量が増えます。そのためもうひとり常駐できるトレーナーがほしいと思っていました。管野とともに福士にもベルマーレ強化のためにRIZAPで学んだことを生かして欲しい。2人が楽しいと感じながら仕事をしてくれることがベルマーレのためにもなると思います。ぜひ、頑張って欲しい。

二宮:  先ほどお話にも出た低酸素ルームや最新のトレーニング機器がそろうRIZAP Labはいかがでしょうか?

曺:  素晴らしい設備の中で自分の体と向き合えるのですから選手は幸せだと思います。ただ、サッカーの監督としては少し気になることも……。

二宮:  と、いいますと?

曺:  サッカーの技術がないから体を強くするという考えは選手に持ってほしくない。それはサッカー選手として“逃げている”のかな、と。戦える体づくりも大事ですがプロとして技術、戦術を理解するための頭脳やメンタル面など全てが揃っていいサッカーがお見せできると考えています。

二宮:  そのあたりのハンドルさばきは管野さんの腕の見せ所ですね。

管野:  そうですね。一番は先ほど申し上げたように試合に勝つことと、選手の成長ですが、この施設を通じて2つのことに取り組みたいと思っております。1つは選手のフィジカル強化やコンディション維持。もう1つは様々なデータに基づいて選手のハイパフォーマンス、コンディションの再現性を高めたいです。この選手はどういう時にコンディションが低下するのか、どういう時に上がるのか……。今まである種感覚に頼っていたものをデータ化できればと考えています。

二宮:  データ化、数値化ができれば好不調の波が少なくなりそうですね。

管野:  ただしスポーツは“生き物”でもあると思っていますので、すべてがそれで解決できるとは思っておりません。コンディションが良くても勝てない時もあります。ですので同じ数値でも調子にバラつきは出ることもあるかもしれませんが、ベルマーレのトレーナーとして選手のコンディションをなるべく高い状態で一定に保ち、勝利に貢献したいと思っております。

二宮:  采配を振るう上で数字やデータは大事な根拠になります。一方で、科学(データ)に頼り過ぎてもいけないのでは?

曺:  采配にあたり「この選手の技術は何点で、戦術理解度が何点で合計点が何点」と点数をつけることはできません。最後は僕の感覚で判断することも時としてありますが、これはデタラメな勘とはまた違うんです。

二宮:  日々の観察に基づいた判断でしょうか。

曺:  はい。管野たちが提示してくれるデータを全部見て、さらに毎日選手のトレーニングをよく見ることで判断できるんです。

管野:  監督は瞬時にいろいろな決断をしなくてはいけません。監督が判断しやすいような(データなどの)材料を提供することも私の仕事です。

二宮:  ひと昔前では、想像もできなかったことですよね。

曺:  僕はよく選手に「今の常識が10年後も常識であるとは限らない」と言います。ベンチで指揮を執っていて直接的に細かいデータを考えることはあまりないのですが、今後はあり得るかもしれないですね。

<指導者と選手の信頼関係>

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二宮:  昨シーズン、ベルマーレに加入した梅崎司選手は「監督の熱い言葉も移籍の決め手の1つになった」と語っていました。やはり指導者として伝え方は気を遣いますか?

曺:  どうやって伝えよう、どうやって話をしようか……と、よく考えます。教科書や本を読んでも正解は載っていないので自分で考えないといけない。RIZAPの店舗でお客さんをサポートしている時もそうじゃないかな?

管野:  おっしゃる通りです。アスリートとダイエット目的のお客様では距離感が違うと先ほど言いましたが、「どうやって伝えようかな」とコミュニケーションを重要視する点では同じです。

二宮:  RIZAPはコミュニケーションも大事にしていますものね。昔のように「あれやれ、これやれ」という上意下達ではダメだし、甘やかし過ぎても……。

曺:  事前に考えたことをそのまま話すこともあれば、本人を目の前にして直前で変更して話すこともある。あとから考えたら「これ、言わなきゃよかったなぁ」なんてこともありますよ。

二宮:  そういう時はあとでフォローするんですか?

曺:  いろいろと理由をつけてフォローをするとかえって疑われるかもしれないので、素直に「昨日のオレの説明、間違っていた。悪かった」と謝ります。「昨日言ったことは、間違いじゃないんだけど、えーっと、ああだ、こうだ」と言われるのは僕自身が好まないので……。

二宮:  近年、スポーツ界ではパワハラが問題になっています。この問題は“言葉”とも深い関係がありますよね。

曺:  指導者が優しい口調で説明しても受け手が「この人、私のことを本当に思って言ってくれていない」と感じたら、それもある意味ではパワハラになってしまいますよね。

管野:  受け手の感じ方が大きいと私も思います。

曺:  一方で厳しい口調でも相手がパワハラに感じないこともあります。

二宮:  要は信頼関係の構築が大切だと。

曺:  おっしゃるように指導者が本当に思っていることを伝えて、選手がその指導を受け入れられる関係性を構築しているかどうかが重要です。その結果として「パワハラだった」「パワハラじゃない」となると思うんです。

二宮:  曺監督は芯があってブレない指導者だから、選手との信頼関係を築くのはうまそうです。

曺:  指導者が「これを言ったら嫌われるかな」とかパワハラを恐れて嘘を言っても仕方ない。“トラブルがチャンス”くらいに思っていないと指導者は務まりませんよ。

二宮:  トラブルがチャンス? いい言葉ですね。

曺:  トラブルにもよりますが(笑)。一般的な生活面を例に出しましょう。お隣さんとゴミ捨てに関してトラブルになったとします。よく話し合ってみるとトラブルの根底には「お互いに綺麗に気持ちよくゴミ捨て場を使いたい」ということが確認できた。じゃあ、片方だけが掃除をするんじゃなくてお互いに掃除をして、どうやって掃除をするという方法まで話し合えば、信頼関係はトラブルが起こった当初より強くなると思うんですよね。

二宮:  雨降って地固まると言いますものね。最後になりますが、今季は選手がかなり入れ替わりました。今シーズンにかける意気込みは?

曺:  現状維持は堕落だと思っています。昨季よりレベルアップするためにいろいろな刺激を注入しないといけない。そのためにもRIZAPのノウハウを借りて様々なことを検証しながら前進していきたいものです。

管野:  私は曺監督が志向するサッカーに、どうフィジカル面でサポートできるか、どうすれば選手個々がピッチで躍動できるかを突き詰めたい。クラブが体現したいこと、選手個人が体現したいことを共存させ、チームの勝利に貢献していきたいと考えています。

<曺 貴裁(チョウ・キジェ)>

1969年1月16日、京都府出身。早稲田大学に進学し、ア式蹴球(サッカー)部に入部。大学卒業後、日立製作所サッカー部(柏レイソルの前身)に入部。94年に浦和レッズ、96年にヴィッセル神戸に移籍。翌年に現役を引退した。98年にドイツのケルン体育大学でサッカー指導を学ぶ。00年に帰国。以降は川崎フロンターレやセレッソ大阪でコーチや育成年代の監督を経験。05年に湘南ベルマーレのジュニアユースチームの監督、翌年はユースチームの監督を務め、09年にトップチームヘッドコーチに就任。12年、監督に昇格。昨季はルヴァンカップを制した。今季でチームを率いて8年目となる。

<二宮 清純(ニノミヤ・セイジュン)>

1960年、愛媛県生まれ。スポーツジャーナリスト。株式会社スポーツコミュニケーションズ代表取締役。スポーツ紙や流通紙の記者を経てフリーのスポーツジャーナリストとして独立。オリンピック、サッカーW杯、メジャーリーグ、ボクシング世界戦など国内外で幅広い取材活動を展開中。東北楽天ゴールデンイーグルス経営評議委員。日本サッカーミュージアムアドバイザリーボード委員。テレビのスポーツニュースや報道番組のコメンテーター、講演活動と幅広く活動中。

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