ダイエットの先にある「健康」へのコミット--。次のステージを目指すRIZAPのトーク企画第2弾のゲストは横浜F・マリノス所属の中澤佑二選手。言わずと知れた日本を代表する名ディフェンダーだ。国外のワールドカップで初の決勝トーナメント出場を果たした2010年南アフリカ大会ではセンターバックとして4試合全てにフル出場を果たした。その中澤選手は39歳の今もフィールドに立ち、自身の持つJ1連続フル出場試合記録を更新し続ける。「無事是名馬」の秘訣は何か。RIZAPパーソナルトレーナー・管野翔太さんとともに「トレーニングの今」を考える。司会はスポーツジャーナリストの二宮清純さん。
<年齢による衰えをカバー>
二宮: 中澤さん、まず初めにうかがいます。RIZAPと聞いて何をイメージしますか?
中澤: ラフォーレ(東京・原宿)の前のすごい大きな看板と、あとはいい音楽とともにいろんな人が回っているCM、そのイメージが大きいです(笑)。
管野: 最近ではタレントの松村邦洋さんが30キロの減量に成功しました。ご存知でしょうか?
中澤: 知っていますよ。ちゃんと「結果にコミット」しているのは本当にすごいですね。
二宮: さて中澤さんは7月1日にフィールドプレーヤーとしてJ1最多となる連続フル出場140試合を達成しました。これは日頃の鍛錬と節制の賜物でしょうね。
中澤: 日々のトレーニング、そして監督へのゴマスリです(笑)。
二宮: アハハハ。プレーを見ていていつも感心しますが、39歳とはとても思えない。
中澤: いやいや、そんなことはありません。衰えも感じていますし、結構、キツイんですよ。特に動き始めの初速が落ちています。図でイメージすると若い頃は「バッ」とトップスピードに乗って、それが持続して台形のような形だったのが、今は初速からトップスピード到達までに時間がかかって山型になっている感じですね。トップスピードに乗るまでの到達タイムが落ちていると思います。
二宮: これはどういうところに原因があるのでしょうか。早速、管野さんに伺いましょう。ちなみに管野さんはずっとサッカーをされていたそうですね。
管野: はい、小さいころからプレーしていて、Jリーグのユースチームにもいました。
中澤: おお! ポジションは?
管野: センターバックをやっていました。チームは柏レイソルです。
中澤: おおおっ!
管野: まさに少年時代はボンバーヘッド世代で、ずっと中澤さんのプレーを見て育ちました。
中澤: ありがとうございます。嬉しい反面、ちょっと恥ずかしいですね。
二宮: ポジション柄か管野さんも187センチの中澤選手に負けず劣らず長身ですね。
管野: 188センチです。私にも経験がありますが、体が大きい選手というのは小柄な選手に比べ、初速の部分で少々ハンディがあるんです。そして瞬発力は残念ながら加齢とともに衰えていきます。
二宮: 中澤さんは初速の衰えを補うために、どんなトレーニングを行なっているのでしょう?
中澤: 特に意識しているのは筋肉を大きくすることよりも、最大筋力、パワーをできるだけ上げることを考えてトレーニングしています。要するにヨーイドン! で、若手と同じようにパッと出られるようにしたいんです。一方で有酸素運動、持久力に関しては若い頃と比べても遜色ないと思っています。
二宮: 具体的にはどういうメニューを?
中澤: 例えばスクワットなら自分が持ち上げられる最大負荷の70%~80%ぐらいの重さで10回を3セットしています。
二宮: 管野さん、これは結構、ハードなメニューですよね。
管野: いや、もう相当にハードだと思います。
中澤: 確かにキツイと思うときもあります。でも自分の中に「これをやらないと若い選手に勝てない」という危機感があるので、それをエネルギーにしてハードなメニューにも耐えています。
二宮: 今、日本にはすばしっこい若手が多いですからね。
中澤: はい。距離にすると2メートルか3メートル。ちょこちょこっとした動きがうまいんです。そんな彼らを止めるためには普通にトレーニングをしていたらダメだと思います。それにしてもトレーニングの専門家を前にして、「オレはこういうことをやっています」と言うのは何だか気が引けますね。僕はあくまで見よう見まね、我流ですから。
管野: いやいや、中澤さんのメニューは特に問題はなく、満点だと思いますよ。しかも誰かに「やらされている」のではなくて、御自身で「やっている」。それがモチベーションになっているのではないでしょうか。
中澤: これは僕にも経験がありますが、一方的に押しつけれてしまっては長続きしませんね。
<ケガをしないのも才能>
二宮: 中澤さんがトレーニングについて、意識し始めたのはいつ頃ですか?
中澤: 昔は質よりも量という感じで、やればやった分だけ力になると考えていました。1日に10キロも20キロも走ったりしていました。でも25歳を過ぎてJリーグ、アジア・チャンピオンズ・リーグ(ACL)、さらに代表などで戦っていると、体のあちこちが痛くなってくるんです。そうなると休むことも必要になる。そうしたことが重なって「量よりも質を重視しないといけないのかな?」と思い始めたんです。たぶん20代後半くらいでした。
二宮: 質を求めてどのようなことを改善しましたか?
中澤: トレーニングの見直しというか、自分の体との会話を始めました。「このトレーニングは合っているのか?」「今の体にベストなのか?」と常に自問自答しながら今に至っています。
管野: トレーニングも重要ですが、無茶をしたらやはり故障の原因になります。RIZAPでも8万人のデータを基にして、一人一人の目標や目的に合った最適なトレーニングを提供しています。体を鍛える際に重要なのは無茶をするのではなく、最適なトレーニングと休養のバランスをとることです。自分の体と相談しながらやってきたことも、中澤さんが長く現役を続けられている秘訣なんでしょうね。ところで日本代表のトレーニングは厳しかったんじゃないですか?
中澤: 代表はそのときの監督によります。トルシエのときは軽くて、一番きつかったのはジーコのときですかね(笑)。普通、代表というのは集まったら戦術やコンビネーションなどの練習が主なんです。クラブでフィジカルトレーニングはやっていますから。ところがジーコは「フィジカルも大事だ」と言って、選手にハードなトレーニングを課しました。
二宮: センターバックは失点を防ぐために体を張るポジションですが、中澤さんはこれまで大きなケガがありません。これも1つの才能だと思いますが、何か秘訣は。
中澤: 危険予知能力というか、僕は危ないときにはいかないんですよ(笑)。
管野: 少年時代から中澤さんのプレーを見ていますが、結構、ガツガツいっているイメージがありますよ。
中澤: いや、「あっ、今いったら危ないかな」「相手をケガさせちゃうかも」「今いってもボールは取れないかな」というシーンが試合中には結構あるんですよ。そういうときは無理をしません。
二宮: ケガで長期間、離脱となるとチームに迷惑をかけますからね。
中澤: そうなんですよ。若い選手の中には、ケガをしないことがどれだけ大事なのかをわかってない選手も多いと思います。僕はヒザ、足首など大きなケガがない。だから長く続けられている部分もある。何が何でも当たりにいくっていうのは、20代だったらできますが、30歳を越えてくるとなかなか難しい。その分は経験や頭脳でカバーしています。
二宮: 予測して先に動くわけですね。
中澤: はい。そうやってカバーしないと、若い選手にすぐに追い越されちゃいますから。予測というと面白い話があるんですよ。
管野: それはなんでしょう。ぜひ、お聞きしたい。
中澤: 今はGPSを装着して練習をしているのですが、それでどれくらい走っているか、ダッシュしているか、減速しているか、データが出るんです。
二宮: 前回、登場いただいたラグビーの大野均選手も言っていましたが、あれは選手としてはイヤでしょうね。
中澤: そりゃあイヤなもんですよ。足が速い選手はいいよな、って感じです。あと僕としては予測して動いてしまうと、スピードが出ないんですね。先を見越して動いているからトップスピードに入る前にプレーを完了させているんですよ。
管野: 逆に出遅れて慌ててダッシュした選手の方がいいデータが残っていたりしませんか?
中澤: そうなんですよ。頭を使うとデータではあまりいい記録が出ない(笑)。だからハイテク機器の導入はいいんですが、それが評価につながるとベテランには厳しい(笑)。サッカーはそれだけじゃないですからね。
<理想的な体脂肪率>
二宮: ところで、中澤選手は体型もほぼ若いときと変わりませんね。そこで体脂肪のデータを調べてみました。20代の頃が7%、20代後半が8~9%、30代が10%。管野さん、この数値はいかがでしょう。
管野: いやあ、素晴らしい。サッカー選手のパフォーマンスという観点からみても、いい数値だと思います。
二宮: 2年前、日本代表のヴァイド・ハリルホジッチ監督が「体脂肪12%を超えた選手は代表に呼ばない!」と発言したことがありました。でも単純に体脂肪率が低ければいいというものでもないでしょう。
管野: そうですね。その選手に必要な脂肪はあった方がいいと思います。
中澤: 昔は体脂肪というものが嫌いだったんですよ(笑)。もう不摂生の象徴、悪者だという感じで目の敵にしていました。「なんだよ、中澤、タルタルじゃねーかよ」と思われるとイメージが悪くなるじゃないですか。でも、ある時に持久系のアスリートは脂肪が適度についてないとパフォーマンスが落ちるという情報を仕入れたんです。それからは脂肪=悪ではなく、必要な脂肪とうまく付き合っていくようにしています。
管野: 脂肪は運動の際にエネルギーとして使われることが非常に多いんです。長友佑都選手はインタビューでよく「ケトン体体質(編注・ケトン体=アセトン、βヒドロキシ酪酸、アセト酢酸の総称。ブドウ糖が糖質を分解してエネルギーを作るのに対して、ケトン体は脂質を分解してエネルギーを作る)」という言葉を口にしています。これは脂質を分解してエネルギーにかえて上手に使おうというものです。
二宮: では、食事の面で気をつけている点は?
中澤: 体脂肪を悪だと思っていた時代は、食べたくても我慢したり、夜はあっさりした食事にしていました。でもケガをしたときにいろいろな専門家に相談すると「もっと食べた方がいいんじゃないか?」と言われました。それからは肉、魚、野菜、フルーツなどバランス良く食べています。自分の体に「今、食べたい物はなんだ?」と聞いて、なるべく好きな物を食べるようにしています。
二宮: カロリー計算は?
中澤: 一時期していたこともありましたが、今は面倒なのでやっていません(笑)。あとは良質のオイルを野菜にかけて食べるくらいですかね。食事は考えて食べるよりも、美味しく食べることの方が大切だと思っています。
管野: それはとても大事なことですね。「あれを食べなきゃ」「これを食べてはいけない」という決まり事ばかりに縛られると、それがストレスになって悪影響が出ることもあります。RIZAPでもダイエットやトレーニングの際に、食事メニューについてもお客様に提案をします。そのときに気をつけているのは、どうすればモチベーションを高く保って頂けるか。その伝え方です。ただ正しいだけでは受け入れてはもらえません。メニューの意味を理解して頂いた上で、御自身でやる気を引き出してもらう。そのための最良の伝え方についてはトレーナー教育の場で念入りにレクチャーしています。
中澤: いくら正しくて良いものでも、頭ごなしにガーッとやられると、気持ちが離れていきますよね。いかに選手を気分良くコントロールするか、それがトレーナーの腕の見せ所なんでしょうね。
管野: 聞くところによると中澤選手はお酒は飲まず、夜更かしもせずにきちんと7~8時間の睡眠をとる規則正しい生活をされているそうですね。先ほどのトレーニングへの意欲的な取り組みに加えて、こうした節制も長く第一線で活躍できている理由だと思います。
二宮: 中澤さんは飲んだら強そうですけど(笑)。
中澤: いやァ、どうなんでしょう。こればっかりは飲まないし、飲んだことがないからわからない。「仕事の後はビールがうまい!」という話を聞くと「どんなものなんだろう……」と興味はわきますけど、現役の間は飲まないと決めています。飲むとしたら引退してからですよ。
二宮: 引退後となると、お酒は当分先……。
中澤: とりあえず40歳まで頑張ります。
管野: エッ!? 本当ですか。
中澤: 来年で40歳、プロ20年。区切りもいいし、優勝して有終の美を飾るなんて最高ですね。
管野: 長い間、おつかれさまでした……と言いたいところですが、少年時代のヒーローには、1日でも長くピッチに立っていてほしいですね。その間、お手伝いできることがあれば喜んでやらせてもらいます。
<中澤佑二(なかざわ・ゆうじ)プロフィール>
1978年2月25日、埼玉県出身。埼玉県立三郷工業技術高校卒業後、ブラジルのFCアメリカへサッカー留学。99年にヴェルディ川崎(現東京ヴェルディ)の練習生からプロ契約。同年Jリーグ新人王に輝く。2002年に横浜F・マリノスへ移籍。03年、04年リーグ連覇に貢献。自身も04年にリーグMVPを獲得。リーグ戦153試合連続フル出場中。リーグ通算567試合出場、35得点。日本代表として06年ドイツ、10年南アフリカW杯に出場。代表通算110試合出場、17得点。身長187センチ、体重78キロ。(試合数、ゴール数はすべて10月23日現在)